イチゴ 野イチゴ
8
八
不意に大きな音があたり一面に響き渡った。
雑踏の中、キキキキという金属音。何かがぶつかる音。滑っていく耳障りな衝突音。
人々がたくさん集まって来る。
ざわめきが広がってゆく。サイレンの音、救急車の音、悲鳴、泣き叫ぶ声。
事故?
これは、あたしが巻き込まれた事故?
ミイナの目の前の霧が徐々に晴れてゆき、映像が流れだす。
人ごみの中央にミイナが横たわっている。
大きなトラックの荷台からいろいろな物が崩れ落ちている。
長い鉄パイプや短い鉄状の物が何本か下半身に乗っていてその上にもっと何か鉄板のような物も乗っている。
ミイナの顔色は紫色になっていて、微かに埋もれた下半身から黒い血が流れているような気がする。
そのミイナの元へ身体中に擦り傷を負った血だらけの男の子がゆらりと現れた。
左側の頬には黒く血の固まった傷跡が痛そうだし、左腕は普通じゃない形になっていてどこかが壊れている事は明白だった。
そしてその男の子は、目の前の女の子を見つめて言った。
「ミイナ!しっかりして!」
自分もフラフラで立っている事もやっとなのに、そう確かに声をあげた。
その男の子は、優馬だった。
今にも倒れそうな優馬だった。
「あれ、優馬くんだよね」
その光景を見ているのは、二人並んで立っているミイナと優馬だ。
今までと変わりなく、三次元の空間の中に入り込んでしまったような別世界の二人。
「そう、ミイナの事見つけて振り向いたんだ。あの日」
あの日?
あたしが自転車を走らせていたあの日の事だろうか?
そうだ、あの日を境に記憶がぐちゃぐちゃになっているんだ。
学校での出来事や優馬くんとの会話、そして今目の前に起こっている大惨事。
何がどうなっていて、本当のあたしはどこにいてどこに向かおうとしてるんだろう。
「ミイナ!しっかりして!」
その声が聞こえたと思ったら、その男の子はミイナから目をそらせて空中を見つめると顔を上げてのけぞるようにして、大きな音を立てて頭から後ろに倒れ込んだ。
バタンと言う音とともに周りが声をあげる。
優馬の頭からどす黒い血が流れた。
見ているミイナは、優馬の手を握った。
「どうしちゃったの?」
震えるミイナの手を優馬の手が強く握りしめた。
「オレもこの先の事はよくわかっていないんだ。でも、ミイナの事は助けたいって強く思った事だけは真実だと思う」
目の前の光景が薄らいでゆき、遠くの方から救急車の音が遠く近く聞こえている。ミイナの足はまだ、暗闇の中で輪郭をもたない。
すると、二人は突然どこか広い空間に放り出された気がした。
ぐらりと揺らぐ足元、軋む身体引っ張られる背中。
手を握り合う二人に、前方に光が見えてくる。
「学校」
優馬が呟くようにして、ミイナの手を強く握る。
「え?学校なの?あの光っているところが学校なの?」
優馬の顔を見つめると、うっすらと笑顔なのがわかった。嬉しそうな表情と希望にも似た瞳の光は、まっすぐにその光を見つめている。
「行こう」
優馬の握る手のぬくもりを感じながら、泳いだ。
本当に空間を泳ぐ、そんな感じだった。
そうして、二人は学校の体育館の入り口に立って、校庭を見つめていた。
すごく懐かしい気さえして、ため息を漏らすと優馬の顔を見上げてみる。
「懐かしいね。ここで、何度もミイナと話したよね」
同じ気持ちでいるのがわかると、胸が苦しくなる。
この人はいったい何者なのかしら。
そして、どうしてあたしの隣にいるんだろう。
不思議な疑問が次から次へと湧き出して、聞きたくなった。
「優馬くんは、だれ?」
真っ直ぐにストレートに聞いてみる。
「まだ、思い出せない?」
優しい眼差しが切ない。長いまつげが悲しそうに閉じる。
優馬が握っている拳を開いて見せた。光に反射して青白くピカピカ光って宝石のような石が現れた。
「それ、あの時の」
ミイナは石を見つめて、そのまま視線を優馬に戻した。
優馬は照れくさそうに笑って頷いた。
「石」
どうして優馬がもってるのだろう?汗だくになってようやく探し当てた大切な、いや自分のした事を帳消しにする為の石。
「オレ、わかんないかな?あの時のガンちゃん」
少し恥ずかしそうに頭をかいて、優馬は遠くの方を見つめた。
誰もいない校庭は夕陽がさして茜色に染まってなんだか切ない。
「うそ」
ミイナは嘘だと思った。だって、ガンちゃんはかっぷくがよく、悪く言えば少しデブだったし、背も高くなかったし、いつでも泥んこが顔にくっついているような、本当にガキ大将って感じの男の子だったから。
「子どもの頃はガキ大将だったけど、まあ、来た当初はそのままガキ大将続けてられたけどな」
あれ?とミイナは思い出したことがあった。
「近くのマンションに引っ越してきたからよろしくって、家に田舎の知っているおばさんが来たことがあった」
表情が明るくなって優馬が笑う。
「そう、それ、オレんちの親」
そうか、小学校に入った頃くらいからあの辺のガキ大将みたいになっていた男の子だ。一緒にかくれんぼや缶蹴りやっていたのは、だから優馬だって事だ。
「じゃ、一緒にあそんでた」
もう一度うなずく。
「親が離婚したんだ。田舎はミイナと同じだけど、父さんの方のばあちゃんだからあれからもうずいぶん行っていないよ。さっきの映像は懐かしいな」
やっぱり遠くの方を見つめている。
今まで見て来た、どの映像にも優馬が一緒にミイナのそばにいたという訳だ。
「あんなに、丸っこい顔してたのに、変われば変わるもんだね」
優馬の細おもてな輪郭、すらっと伸びた手足をしげしげと眺めた。
「ミイナは変わらないよな。昔と一緒で可愛いままだ」
かぁっとほほが赤くなるのを感じた。
「あたし、知らなかったよ」
焦ってふくれっ面になる。
「一度言ったと思うんだけど。聞いてない?」
聞いたことあっただろうか。もしかしたら、忘れているだけかもしれない。
沢山の大切な事を忘れている気がして、焦りと不安が胸いっぱいに広がっている。
「で?どうして校庭に現れるようになったって?」
不安や焦りを打ち消したくて、自分が今どこにいるのか、本当の世界はどうなっているのか、知りたくて優馬を見つめた。
「それと、優馬くんどうしてガンちゃんって呼ばれてたの?」
素朴な疑問も頭に浮かんだ。
「あ、元の苗字岩山っていうんだ。で、ガンちゃん」
離婚したって言っていた。
「今は、北村優馬です」
柔らかい表情が返ってきた。
不意に校庭でかけ声が聞こえてくる。
何人もの生徒の姿が見える。
「あれ、サッカー部」
シュートの練習をする者とパス回しをするグループ。ゴールネットの裏で先生と話している制服を着ている生徒がいる。
背が高い色の黒い男の子、まさしくそれは優馬だった。
優馬の肩に手を当てて、先生は励ましているように見えた。
優馬の目線は、グランドにいる練習をしている生徒に注がれている。口元をギュッと閉じて上目使いで見つめる瞳は濡れて光っているようにも見える。
「オレ、頭ん中に腫瘍?ての?ができちゃって、サッカーできなくなったんだ」
問いかける前に優馬が話始めた。
「オレさ、いろんなスポーツやってみたけど、サッカーくらい面白いと思ったスポーツなかったな。これでも運動神経はなかなかだったんだぜ。なにやっても、自分で言うのもなんだけどうまかったんだ」
それから制服の優馬は、今いる二人が立っている場所に座ってサッカー部の練習を見つめている。
目の前にいる当時の優馬は寂しそうに笑い、時折悔しそうな瞳を伏せて足元を見つめた。
それは何日も何日も続いたように思えた。
不意にそんな優馬が瞳を輝かせて見つめる先が、サッカーグランドじゃなくなった。
手前にあるトラック。陸上部の練習が行われているトラックだ。
自分たちの学校は校庭はかなり広くて、向こう側にサッカーグランドがあり、奥に野球部のグランド、手前に陸上トラック、これは他よりずっと小さい。
短距離走の部員たちが思い思いにダッシュしている、そしてその中にミイナの姿もあった。
まだまだ、入部してからようやく後輩ができてしっかりしなくちゃと思っているミイナ、先輩の顔色を見ながら走る姿は、初々しくて懐かしくもある。
「優馬くんはわたしの事、みてた?」
目が合うと頬が上気して赤くなるのを感じた。
「オレ、走るの好きだったしいきいきして走ってるミイナの事見てるの好きだった。楽しかった。でも、卒業してもうここでミイナの事みてるのも終っちゃうのかなって思ってさ。高校進学しても、身体動かす事できなそうだし、かなりくさったんだ。親も金ないのに不憫におもったらしくて、中古でバイク買ってもらってさ。免許取ったから乗り回して、迷惑かけて。オレミイナより一つ年上なのね」
そう言いながら優馬は下を向いた。
「だから、ミイナが自転車走らせている時見つけて、あ、オレあの時バイク走らせてたんだけどね」
あの時、ミイナがイラついて自転車でケーキ屋さんに向かっていたあの時だ。
ミイナの胸がギュッと詰まった。
「だから、みんなオレのせいなんだ。オレのせいでミイナの足」
優馬はもう一度下を向いて、小さな声で言った。
「ごめん」
あたしが足を失ったことを言っているの?それとも、今まで黙っていた事?
「ミイナが死んじゃうかもって思って、オレ自分の事はいいからって。自分の事はいいから助けて下さいって祈ったんだ。意識がなくなっていく中で、オレ気づいたらミイナ探してた、だけどミイナはどこにもいなくて、探して探して。そうしたら、違う場所にいた。本当に思ってもいない場所にミイナはいたんだ。だから、ミイナがそこで何してるのか観察してた。そうしてここが、どこなのかもなんとなくわかってきたんだ。だから」
優馬は大きく息を吸い込んで、そして吐いた。
「ミイナ、ここがどこなのか、気づいて!」
何を言っているのかわからなかったけれど、確かめられずに言葉を選んでいると、急に大きな声がミイナの近くから聞こえた。
不意に大きな音があたり一面に響き渡った。
雑踏の中、キキキキという金属音。何かがぶつかる音。滑っていく耳障りな衝突音。
人々がたくさん集まって来る。
ざわめきが広がってゆく。サイレンの音、救急車の音、悲鳴、泣き叫ぶ声。
事故?
これは、あたしが巻き込まれた事故?
ミイナの目の前の霧が徐々に晴れてゆき、映像が流れだす。
人ごみの中央にミイナが横たわっている。
大きなトラックの荷台からいろいろな物が崩れ落ちている。
長い鉄パイプや短い鉄状の物が何本か下半身に乗っていてその上にもっと何か鉄板のような物も乗っている。
ミイナの顔色は紫色になっていて、微かに埋もれた下半身から黒い血が流れているような気がする。
そのミイナの元へ身体中に擦り傷を負った血だらけの男の子がゆらりと現れた。
左側の頬には黒く血の固まった傷跡が痛そうだし、左腕は普通じゃない形になっていてどこかが壊れている事は明白だった。
そしてその男の子は、目の前の女の子を見つめて言った。
「ミイナ!しっかりして!」
自分もフラフラで立っている事もやっとなのに、そう確かに声をあげた。
その男の子は、優馬だった。
今にも倒れそうな優馬だった。
「あれ、優馬くんだよね」
その光景を見ているのは、二人並んで立っているミイナと優馬だ。
今までと変わりなく、三次元の空間の中に入り込んでしまったような別世界の二人。
「そう、ミイナの事見つけて振り向いたんだ。あの日」
あの日?
あたしが自転車を走らせていたあの日の事だろうか?
そうだ、あの日を境に記憶がぐちゃぐちゃになっているんだ。
学校での出来事や優馬くんとの会話、そして今目の前に起こっている大惨事。
何がどうなっていて、本当のあたしはどこにいてどこに向かおうとしてるんだろう。
「ミイナ!しっかりして!」
その声が聞こえたと思ったら、その男の子はミイナから目をそらせて空中を見つめると顔を上げてのけぞるようにして、大きな音を立てて頭から後ろに倒れ込んだ。
バタンと言う音とともに周りが声をあげる。
優馬の頭からどす黒い血が流れた。
見ているミイナは、優馬の手を握った。
「どうしちゃったの?」
震えるミイナの手を優馬の手が強く握りしめた。
「オレもこの先の事はよくわかっていないんだ。でも、ミイナの事は助けたいって強く思った事だけは真実だと思う」
目の前の光景が薄らいでゆき、遠くの方から救急車の音が遠く近く聞こえている。ミイナの足はまだ、暗闇の中で輪郭をもたない。
すると、二人は突然どこか広い空間に放り出された気がした。
ぐらりと揺らぐ足元、軋む身体引っ張られる背中。
手を握り合う二人に、前方に光が見えてくる。
「学校」
優馬が呟くようにして、ミイナの手を強く握る。
「え?学校なの?あの光っているところが学校なの?」
優馬の顔を見つめると、うっすらと笑顔なのがわかった。嬉しそうな表情と希望にも似た瞳の光は、まっすぐにその光を見つめている。
「行こう」
優馬の握る手のぬくもりを感じながら、泳いだ。
本当に空間を泳ぐ、そんな感じだった。
そうして、二人は学校の体育館の入り口に立って、校庭を見つめていた。
すごく懐かしい気さえして、ため息を漏らすと優馬の顔を見上げてみる。
「懐かしいね。ここで、何度もミイナと話したよね」
同じ気持ちでいるのがわかると、胸が苦しくなる。
この人はいったい何者なのかしら。
そして、どうしてあたしの隣にいるんだろう。
不思議な疑問が次から次へと湧き出して、聞きたくなった。
「優馬くんは、だれ?」
真っ直ぐにストレートに聞いてみる。
「まだ、思い出せない?」
優しい眼差しが切ない。長いまつげが悲しそうに閉じる。
優馬が握っている拳を開いて見せた。光に反射して青白くピカピカ光って宝石のような石が現れた。
「それ、あの時の」
ミイナは石を見つめて、そのまま視線を優馬に戻した。
優馬は照れくさそうに笑って頷いた。
「石」
どうして優馬がもってるのだろう?汗だくになってようやく探し当てた大切な、いや自分のした事を帳消しにする為の石。
「オレ、わかんないかな?あの時のガンちゃん」
少し恥ずかしそうに頭をかいて、優馬は遠くの方を見つめた。
誰もいない校庭は夕陽がさして茜色に染まってなんだか切ない。
「うそ」
ミイナは嘘だと思った。だって、ガンちゃんはかっぷくがよく、悪く言えば少しデブだったし、背も高くなかったし、いつでも泥んこが顔にくっついているような、本当にガキ大将って感じの男の子だったから。
「子どもの頃はガキ大将だったけど、まあ、来た当初はそのままガキ大将続けてられたけどな」
あれ?とミイナは思い出したことがあった。
「近くのマンションに引っ越してきたからよろしくって、家に田舎の知っているおばさんが来たことがあった」
表情が明るくなって優馬が笑う。
「そう、それ、オレんちの親」
そうか、小学校に入った頃くらいからあの辺のガキ大将みたいになっていた男の子だ。一緒にかくれんぼや缶蹴りやっていたのは、だから優馬だって事だ。
「じゃ、一緒にあそんでた」
もう一度うなずく。
「親が離婚したんだ。田舎はミイナと同じだけど、父さんの方のばあちゃんだからあれからもうずいぶん行っていないよ。さっきの映像は懐かしいな」
やっぱり遠くの方を見つめている。
今まで見て来た、どの映像にも優馬が一緒にミイナのそばにいたという訳だ。
「あんなに、丸っこい顔してたのに、変われば変わるもんだね」
優馬の細おもてな輪郭、すらっと伸びた手足をしげしげと眺めた。
「ミイナは変わらないよな。昔と一緒で可愛いままだ」
かぁっとほほが赤くなるのを感じた。
「あたし、知らなかったよ」
焦ってふくれっ面になる。
「一度言ったと思うんだけど。聞いてない?」
聞いたことあっただろうか。もしかしたら、忘れているだけかもしれない。
沢山の大切な事を忘れている気がして、焦りと不安が胸いっぱいに広がっている。
「で?どうして校庭に現れるようになったって?」
不安や焦りを打ち消したくて、自分が今どこにいるのか、本当の世界はどうなっているのか、知りたくて優馬を見つめた。
「それと、優馬くんどうしてガンちゃんって呼ばれてたの?」
素朴な疑問も頭に浮かんだ。
「あ、元の苗字岩山っていうんだ。で、ガンちゃん」
離婚したって言っていた。
「今は、北村優馬です」
柔らかい表情が返ってきた。
不意に校庭でかけ声が聞こえてくる。
何人もの生徒の姿が見える。
「あれ、サッカー部」
シュートの練習をする者とパス回しをするグループ。ゴールネットの裏で先生と話している制服を着ている生徒がいる。
背が高い色の黒い男の子、まさしくそれは優馬だった。
優馬の肩に手を当てて、先生は励ましているように見えた。
優馬の目線は、グランドにいる練習をしている生徒に注がれている。口元をギュッと閉じて上目使いで見つめる瞳は濡れて光っているようにも見える。
「オレ、頭ん中に腫瘍?ての?ができちゃって、サッカーできなくなったんだ」
問いかける前に優馬が話始めた。
「オレさ、いろんなスポーツやってみたけど、サッカーくらい面白いと思ったスポーツなかったな。これでも運動神経はなかなかだったんだぜ。なにやっても、自分で言うのもなんだけどうまかったんだ」
それから制服の優馬は、今いる二人が立っている場所に座ってサッカー部の練習を見つめている。
目の前にいる当時の優馬は寂しそうに笑い、時折悔しそうな瞳を伏せて足元を見つめた。
それは何日も何日も続いたように思えた。
不意にそんな優馬が瞳を輝かせて見つめる先が、サッカーグランドじゃなくなった。
手前にあるトラック。陸上部の練習が行われているトラックだ。
自分たちの学校は校庭はかなり広くて、向こう側にサッカーグランドがあり、奥に野球部のグランド、手前に陸上トラック、これは他よりずっと小さい。
短距離走の部員たちが思い思いにダッシュしている、そしてその中にミイナの姿もあった。
まだまだ、入部してからようやく後輩ができてしっかりしなくちゃと思っているミイナ、先輩の顔色を見ながら走る姿は、初々しくて懐かしくもある。
「優馬くんはわたしの事、みてた?」
目が合うと頬が上気して赤くなるのを感じた。
「オレ、走るの好きだったしいきいきして走ってるミイナの事見てるの好きだった。楽しかった。でも、卒業してもうここでミイナの事みてるのも終っちゃうのかなって思ってさ。高校進学しても、身体動かす事できなそうだし、かなりくさったんだ。親も金ないのに不憫におもったらしくて、中古でバイク買ってもらってさ。免許取ったから乗り回して、迷惑かけて。オレミイナより一つ年上なのね」
そう言いながら優馬は下を向いた。
「だから、ミイナが自転車走らせている時見つけて、あ、オレあの時バイク走らせてたんだけどね」
あの時、ミイナがイラついて自転車でケーキ屋さんに向かっていたあの時だ。
ミイナの胸がギュッと詰まった。
「だから、みんなオレのせいなんだ。オレのせいでミイナの足」
優馬はもう一度下を向いて、小さな声で言った。
「ごめん」
あたしが足を失ったことを言っているの?それとも、今まで黙っていた事?
「ミイナが死んじゃうかもって思って、オレ自分の事はいいからって。自分の事はいいから助けて下さいって祈ったんだ。意識がなくなっていく中で、オレ気づいたらミイナ探してた、だけどミイナはどこにもいなくて、探して探して。そうしたら、違う場所にいた。本当に思ってもいない場所にミイナはいたんだ。だから、ミイナがそこで何してるのか観察してた。そうしてここが、どこなのかもなんとなくわかってきたんだ。だから」
優馬は大きく息を吸い込んで、そして吐いた。
「ミイナ、ここがどこなのか、気づいて!」
何を言っているのかわからなかったけれど、確かめられずに言葉を選んでいると、急に大きな声がミイナの近くから聞こえた。