これを恋と呼ぶのなら

 私の上司であり、今となっては元カレの課長と、仲睦まじく身を寄せ合っていたのが親友の希美だ。

 彼氏が親友と浮気していた、そう理解した途端、私は三つの物を失ったのだと思い、絶望した。

 目撃に感づかれて、居てもたってもいられず、会社を飛び出していた。帰宅して退職願いも書いた。

 けれど、翌日に取った私の行動は、会社を辞める事ではなく、課長に「別れましょう」と告げる事だった。

 親友の希美とは気まずくて、あの日は何も話せなかったが、今はこうしてまたお昼を食べている。

 一昨日、私は希美に誘われて二人きりで話をした。

 希美は泣きながら謝ってきた。そして言った。

『信じられないかもしれないけど、知らなかったの』と。

『課長が凛恋(りこ)と付き合ってるなんて、知らなかったの』

 私は希美の涙を見ながらうろたえた。

 それが本当であるならば勿論信じたいし、確かにその可能性は否定できないと思った。

 私と課長は、"社内恋愛だから"という理由で、誰にも公言せずにひっそりと付き合っていた。

 だから全てを知っていた課長から聞かない限り、希美にとってもあの夜は絶望だったのかもしれない。

『課長とは別れたよ』
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