これを恋と呼ぶのなら
希美はあどけなく小首を傾げた。ふわっと揺れる彼女の巻き髪が、風と踊る。
男友達と言われて、不意に妙な違和感が付きまとった。
ベタっと泥が張り付いたみたいな、どこか重苦しい感覚だ。
私は眉を寄せ、曖昧に小首を捻った。
「じゃあ〜無かったか、やっぱり」
「え?」
思えばさっきから、え、しか言えない自分に気付き、その幼稚さに恥ずかしくなる。
「そばにいるのが当たり前の幼馴染みが、男になったって事でしょ?」
その時、"ピロン♫"とラインの通知音が鳴った。
【やっと昼メシ。こっちも良い天気】
メッセージの下に添付された、抜けるような青空を見つめ、心臓がトクンと音を立てた。
*
この気持ちを恋と呼ぶのなら、幼馴染みという枠組みを取っ払ってしまう必要がある。
確固たる関係を十数年かけて積み上げてきたので、今さら何をどう変えていいのか分からず、私は希美に相談した。
『そんなの、女として意識させるしかないじゃん?』
希美はあっけらかんと言い、
『とにかく、今週末にでも飲みに誘ったら?』とアドバイスをくれた。
女として意識させる、に関しては、
『酔いに任せて、帰り道かどこかでしなだれかかっちゃえば?』とどこまで本気か分からない顔で指南してくれた。