これを恋と呼ぶのなら

 ノロマな私が初恋に気付く間もなく、彼は他の誰かの彼氏(もの)になっていた。

 あの時の寂寥感を思い出すと、胸の奥がチクチクと痛むけれど、今ならまだやり直しがきく。

「なに呆けてんだよ」

「……え」

「え、じゃねぇよ。乾杯って言ってんのに」

 ふと気付くと、ゆずがビールジョッキ片手にふて腐れていた。目の前に頼んだカクテルも置いてある。

 いつの間に来たのか、店員さんが運んでくれたらしい。

 ゆずが嘆息し、一度上げたジョッキをテーブルに置く。

 私が手にしたお絞りとカクテルとを彼に入れ替えられて、思わず自分の手を注視した。

 ゆずの手にしっかりとグラスを握らされて、鼓動が早くなる。

「はい、乾杯」

 抑揚の無いゆずの声と共に、カランとグラスが鳴る。

 ゴクゴクとアルコールを流すゆずを見て、次第に顔が火照るのを感じた。

 上下する喉仏が扇情的で艶めかしい。

「っか〜、うめぇっ」

 酒気を吐く彼と視線がぶつかりそうな気がして、私は慌ててグラスを見つめ、ひと口飲み込んだ。

 アルコールを帯びたオレンジの酸味が鼻から抜けて、気分が良くなる。

「……美味しい」

「だな」
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