これを恋と呼ぶのなら
程なくしてお酒のアテも並び、私はゆずと談笑する。面白おかしく仕事の話をする彼といて、楽しいと感じていた。
ちょうどその時。
"RRRRR…"
ゆずの鞄の中でスマホが鳴った。
画面を見るなり、一瞬眉を潜めて彼は「悪い」と断りを入れる。
ゆずが電話で話している間、私は自分のグラスに口を付けた。
彼のビールジョッキが既に空になっているのに気付き、二杯目を頼もうと店内を見回した所で「ごめん、凛恋」と声が掛かる。
私はキョトンとした顔でゆずを見る。
「今から会社に戻ることになった」
ーーえ。
「なんで?」
「明日の会議に使う企画書、後輩がヘマやらかしてデータ紛失したんだと」
「えっ、それ大変じゃん!」
「……ああ」
言いながら彼は苦々しくため息をつく。
「内容を全部把握してんの俺だけだから……」
「そっか」
じゃあ、今日はもうお開きって事になる。
しゅんと肩を落とす私を見て、ゆずが「ごめんな」と言葉を重ねた。
「せっかく凛恋が誘ってくれたのに」
「う、ううん。仕事なんだから、しょうがないよ。気にせず、行って? 私も適当に帰るから」