これを恋と呼ぶのなら
注文した料理には、まだほとんど手を付けていない。残して帰るのは勿体ない。
ゆずは腕時計を見つめ、「まだ七時前か」と呟いた。
「支払いは済ませておくから、八時までには帰れよ?」
「分かった、ありがとう」
意識的に笑い、ゆずに手を振った。
鞄を手に、店外に出て行く彼を見て、気持ちが落ち込んだ。
ーー今日二人で飲むの、楽しみにしてたのにな。
朱く濁ったカシスオレンジを飲み干し、店員さんに水を頼んだ。
*
それから一週間が過ぎた。
ゆずとは居酒屋で会って以来、顔を見ていないが、変わらずにラインのやり取りは続けている。
けれど、あの夜以来、彼からの返信は極度に減っていて、私はいい知れぬ寂しさを感じるようになった。
きっと仕事が立て込んでいるからに違いない、そう予測できるのに、ゆずと繋がっていない今が、寂しくて辛くてたまらない。
今朝送ったメッセージに後付けされた"既読"の文字を見つめ、私は重いため息を落とした。
幾らか残業をしてから仕事を終えて、とぼとぼと最寄駅へ向かう。
ふと地面ばかり見ている自分に気が付き、ハッとなった。
ーーだめだめ。