これを恋と呼ぶのなら

 俯いてばかりだと気が滅入る。

 空を仰ぎ見ると、満月が出ていた。

 ーー綺麗……。

 鞄からスマホを取り出し、パシャ、と写真に収める。

 ゆずとのトーク画面を呼び出し、幻想的な満月を添付して送信した。

 不意に"キンコン♫"と聞き覚えのある通知音が聞こえ、反射的に視線が吸い寄せられた。

「せんぱ〜い、誰からですかぁ?」

 心臓がドクンと強く打った。

 胸の前でスマホをグッと握り締め、私は眉を潜めた。

 若い女の子に絡まれながらも、スマホを見ようとする彼が目に留まる。

「誰でもいいだろ、つか覗くな、プライバシーの侵害だ」

「相変わらずツレないですよぉ、せんぱい。待ってください」

「お前なぁ、直帰なんだから一人で帰れよ」

「方向同じじゃないですかぁ」

 ーーなに。これ……。

 頭では、理解できる。

 きっと後輩と思われるあの子と一緒に営業に出ていて、たまたま私の帰り道と重なった、ただそれだけ……。

「イタっ、」

 艶っぽい声を上げ、女の子が立ち止まる。

「せんぱい、待ってくださいっ。靴ズレして歩きにくいんで腕かしてください」

「はぁ? どれ?」
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