これを恋と呼ぶのなら
数メートル離れた場所でゆずも立ち止まり、屈んで女の子の足を見ていた。
彼らに倣い、自然と私の足も止まる。
嫌ならわざわざ見なければ良いのに、知らんぷりしてさっさと通り過ぎればいいのに、足が固まって動かない。次の一歩が踏み出せない。
「別に靴ズレなんか」
「せんぱいが好きなんです」
「………は?」
「せんぱい、彼女と別れたんですよね?? だったら次はわたしと付き合ってください」
唐突に告白を受けた彼は嘆息し、スッと立ち上がった。
「……お前。俺をおちょくってんのか?」
「違いますっ、わたし、ずっとせんぱいのこと好きだったんです、だから付き合ってください。本気です!」
ーー心臓が……、痛い。
彼女の気持ちを真剣と受け止めて、次にゆずが何と答えるのか、聞くのが怖い。
スマホを握る手に汗が滲み、激しい焦燥でいっぱいになる。
「そっか」
ゆずがいつもの優しい口調で頷き、女の子に向き直った。
「ありがとな」
その言葉を聞いた途端、手からスルッと端末が滑り落ちた。
足元で響いた派手な落下音に誘われて、ゆずの目が女の子から私へと移った。