これを恋と呼ぶのなら
怪訝に眉を寄せ、「凛恋?」と名前を呼んだ。
私は落としたスマホを慌てて拾い上げ、足早に立ち去ろうとした。
他人の振りを装い、彼らから目を逸らす。
「あ、おいっ、凛恋っ」
あと少しで通り過ぎるという時。グッとゆずの手が私の左腕を掴んだ。
「放して……っ!」
私は反射的にゆずの手を振り払った。
ーーあっ。
「………ごめ、」
居てもたってもいられず、私は彼に背を向けた。
背後から忍び寄る罪悪感に包まれて、夢中で駅までを駆け抜けた。
ーーゆずのあんな悲しそうな顔……初めて見た。
ミシミシと心臓が軋んで、今にも押しつぶされそうだ。
ーー私……、最低だっ。
自分勝手な嫉妬に苛立って、ゆずに辛く当たってしまった。
激しく迫る自責の念がキリキリと胃を締め付けてくる。
私は、あの女の子が羨ましかった。
私が何年かけても出来なかった事を、いとも容易くやってのけた。
彼女の事情は分からないが、少なくとも私にはそう見えた。
あんなに積極的に想いを伝える事ができたなら、どんなに清々しいだろう。
きっとこんな醜い気持ちにはならないはずだ。