これを恋と呼ぶのなら

 発車寸前の電車に飛び乗り、閉まったドアに背を預けた。

 走ったせいで、ドクドクと脈拍が上がる。心臓が太鼓のように鳴っている。

 ぜいぜいと息を切らし、ケホ、と少しだけ咳き込んだ。

 握りしめたままのスマホを開けて、さっきゆずに送った写メを長押しする。

 都合が良い事にまだ既読は付いていなかった。

 黒いバナーから送信取消を選び、タップする。

 ハァ、と大きく息をつき、スマホを鞄の中に放り込んだ。

 綺麗な満月の写真を、ただ彼と共有したくて送ったのに、何故か自分の惨めさに憐憫の情がわいた。

 ゆずと一緒にいたい、同じ時間を過ごして、マメに連絡も取り合いたい。

 心の中では欲しがる自分が沢山いるのに、私はそれを表に出せない。

 拒絶されるのが怖くて、なにも求められない。

 私はどこまで不甲斐ないんだろう。

 電車の窓から見える満月をぼんやりと見つめ、もう何度目かのため息を落とした。


「いらっしゃいませ〜」

 元気よく挨拶をするコンビニの店員さんに、ペコっと会釈し、私は真っ直ぐにお酒コーナーに向かった。

 今日は金曜日だし、とことん飲んで忘れよう。
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