これを恋と呼ぶのなら
私は暗闇と、目の前を流れる黒い川と、手にしたお酒を思い、次なる災難を予見した。
夜中にお酒を買いに出たのは良いとしても、家に帰ってから飲めば良かった。
恐怖と極度の緊張感から缶を握る手が微かに震えている。
ザッザッ、と砂利を踏む靴音が聞こえ、不審な男がすぐそばに立つのが分かった。
私はギュッと目を瞑り、男から顔を背けた。何かされたらどうしようと思い、怖くて堪らなくなる。
突然、ふわっと頭を撫でられた。
「なんてな? そのへんでやめとけ」
ーーえ。
よく知っている声が降ってきて、目を開ける。
手から缶酎ハイを取り上げられた。
「………ゆず」
私は呆気にとられ、隣りの彼を見上げた。
緊張から体が強張っていたので、全身から力が抜けた。安堵からフゥと息を吐いた。
斜向かいに住む幼馴染みの柚瑠だ。カッターシャツに緩んだネクタイをぶら下げたスーツ姿で、ゆずが立っていた。
ーーて言うか。さっき、声色使ってワザと脅かした?
若い女が、の声は明らかにいつもの彼じゃなかった。
「こんな夜中になにやってんだよ」
呆れて嘆息しながら、ゆずが私の隣りに座った。
「明日も仕事だろ?」
「そっ、そういうあんただって。何でここにいるのよ」
頭のおかしい行動をとった自分を思い出し、突如として湧き上がる羞恥心から頬が熱くなる。私は俯き、口を尖らせた。