これを恋と呼ぶのなら

「なんだよ、なんか言えよ?」

「……ごめ。何て言ったらいいか分からなくて」

 私はようやく彼から視線を外し、手にした缶を見つめた。

 自らの意に反して、ドキドキが収まらない。

 きっとアルコールのせいだ。

 ほろ酔いぐらいかもしれないけど、酔っているせいで、心臓の脈が早いんだ、きっとそう。

 私は缶を持ち上げ、グビグビっとまた喉に流し込んだ。

「明日どうするんだよ、仕事行くんだろ?」

 ゆずが落ち着いた声で尋ねた。

 帰宅して早々に書いた退職願いを思い、私は曖昧に頷いた。

 ーーどうしよう、仕事。

 今となっては、本当に辞めてもいいのだろうかと躊躇いが生じていた。

「職場恋愛だから気まずいかもしんねぇけど、なんかあったら相談ぐらいはのるからさ」

 言いながらゆずの温かい手が私の頭にポンと乗せられる。

「まぁ、お前が嫌じゃなければ電話でもラインでもしてこいよ」

「……うん」

 私は黙ったまま缶を下げ、それ以上飲むのをやめた。

 明日の仕事に障るのもそうだが、ゆずの前でこれ以上みっともない行動はできない。そんな私を見られたくない。

 残ったお酒を傾けて、静かに地面へと流した。
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