花鎖に甘咬み



「じゃあ、準備しないとだ」



外に出るのなら、顔を洗ったり着替えたり。
最低限の身支度をしないと、とベッドを抜け出そうとすると。

真弓の無造作な腕が私の後ろ首に、するりと回った。

そして、ちゅ、と触れるだけの軽いキスが落ちてくる。



「ま、また……!」

「ふは、顔、赤」



からかうように笑う。
真弓の気まぐれのキスは、もう3回目だ。


深い意味はないのだと、もうさすがに理解している。理解しているのと、動揺しないとは、別だけどね。しっかり、びっくりするし、ドギマギするけどねっ?



余韻もへったくれもなく、先に目覚めたはずの私より先に、なぜか真弓の方があっさりと洗面所へ向かっていく。


その後ろ姿をぼんやり見つめていたけれど、我に返って私もベッドから飛び降りた。



────まったく、心臓に悪い1日のはじまりだ。



× × ×




「ちとせ、支度できたか?」

「うう、まだ……」



数分後。

真弓が使い終わったあと、占領していた洗面所に、真弓がひょっこり顔を出す。



「そんな時間かかるか?」



鏡に向かってあくせくしている私を見て、真弓が不思議そうにしている。



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