花鎖に甘咬み
戸惑う私をよそに、真弓の手のひらが器用に私の髪をひとつにまとめていく。ときおり首もとを掠める指先のこそばゆさに、耐えているうちに。
「これで上出来だろ」
鏡越しに、満足気に口角を上げる真弓と目が合った。
それと、綺麗に完成したポニーテール。
首を左右にまわして確認すると、気になっていた襟足のところもすっきり整っている。
「すごい……っ、ありがと」
目をキラキラさせながら感動して、その一瞬後にもやもやしはじめる。手つき、やけに慣れていたような……。
もしかして、ほかの女の子の髪の毛もこうして触ったこと、あったりして。
気になりついでに、聞いてしまう。
「女の子の髪……結んだことあるの?」
「ねえよ。ちとせのが初めてだ」
その返事に、ほっと胸を撫でおろした。
「にしては、慣れてるね?」
「別に。これくらい、ちとせのやり方見てたらだいたいわかるだろ」
「器用なんだ……」
自分の手でポニーテールにするっと触れてみる。
やっぱり綺麗に結んでくれているし、そういえば、昨晩、ドライヤーもあててくれたんだよね。
ほどきたくないな。
もったいなくて。
「行くぞ」
「あ、うん!」
真弓が隠れ家の入り口の方へと向かう。
その後ろをパタパタと追いかけると、真弓は振り返って、ん、と手を差し出した。
「お手」
からかいまじり、意地悪く笑った真弓の手のひらに、私の手のひらを重ねる。今度はこれが正解で、真弓がぎゅっと握ってくれた。
「その手、離すなよ」
こくり、と頷く。
そして、ふたり揃って隠れ家の外へ足を踏み出した。