花鎖に甘咬み
× × ×
昨晩は、夜だから、こんなにも暗いのだと思っていたけれど。
〈薔薇区〉 は朝でも薄暗い街なんだと、夜が更けてはじめてわかった。
太陽のひかりをほとんど感じない。
街全体が、不健康な雰囲気に包まれている。
「ここだ」
真弓が倉庫のような一軒家の前で足を止める。
「……中華料理屋さん?」
には、見えないけれど。
むしろ、あぶない組織のアジトみたいに見えるけれど。
疑いの眼差しをジトッと真弓に向ける。
「そ」
「えっ、ほんとにっ? ここっ? 間違ってないっ?」
小さなガラス張りの窓がひとつ。
高い位置にあるそれを背伸びしてのぞくと、中では怪しげな青いランプの光がゆらゆらゆらめいていた。
「入るぞ」
「ちょ、ちょっ、ちょっと待って……!」
扉に手をかけた真弓の腕を引いて、引き止める。
だって、見るからに怪しいもん、危なそうだもん。丸腰で入るような場所じゃなさそうだもん……!