花鎖に甘咬み



そんな私などお構いなし。

有無を言わせず、真弓がぐいっと私の腕を引いた。




「わ、わっ!」




バランスを崩して、なだれ込むように倉庫……じゃなかった、中華料理屋さんの中に入る。慌てて体勢を立て直していると。




「いらっしゃいませ────って、マユ?」




青いランプが煌々と光る店内は、中華料理屋さんというよりは、バーみたい。バーなんて行ったことないけれど、洋画に登場するようなバーのイメージにそっくりだ。


そのカウンターに肩肘をついて、私たちを出迎えたその声に、私の体はピシリと固まった。




「久しぶりだな」

「そろそろマユが顔出しにくる頃だと思ってたけど」



この声……。

それから、片目を覆うアシンメトリーの銀髪に、タレ目気味の瞳。

見覚えがある、どころじゃない。



「その子が噂のオンナノコ? はじめましてー」

「もっと驚けよ」

「えー。だって、もう既に情報出回ってるしね。〈猛獣〉が珍しくオンナ連れだって」

「耳が早えーな、相変わらず」

「褒め言葉として受け取っとくよ」




目の前で繰り広げられる会話に面食らう。
ええ……? だって、この人、どう見ても。

でも、私に『はじめまして』ってことは。




「花織さん、じゃない……?」





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