花鎖に甘咬み
たしかに、ちゃんと思い返してみれば。
花織さんみたく、なまりの強い口調じゃない。それからさらに、髪のアシンメトリーが左右で逆だった、かも。
でも、それ以外が似すぎている。
体格も、髪色も、瞳も、輪郭も、特徴的な毒っ気のある声も、そっくりそのまま、花織さんの生き写し。
思わず花織さんにナイフを向けられたことがフラッシュバックして、手が震えるほどには、似ている。
困惑を隠しきれずに、警戒を強めていると。
「あ、花織にはもう会ったんだ?」
「会ったというか……ナイフ振り回されたというか……」
私の答えに、花織さんのドッペルゲンガーは眉をぴくりと動かして、それからにっこり口角を上げた。
「ごめんね? アイツ、血が上ると手ェつけらんないくらい凶暴になるんだ。あれでもかわいい弟なんだけどね」
「おと……うと?」
「うん、弟なんだ。俺の唯一の家族」
と、いうことは……。
心を読んだかのように、彼はふっと笑って口を開いた。
「ああ、自己紹介がまだだったか。こんにちは、はじめまして。花織の双子の兄の宍戸 伊織です。よろしくね」
花織さん────にそっくりの、伊織さんが柔らかく微笑む。アシンメトリーの前髪がさらりと揺れて、隠れていた片目がのぞいた。
どこまでも、花織さんに似ている。
話し方と前髪の向きの他に、違うところを挙げるとするならば、下まぶたに巣食うクマがあるかないかだ。
花織さんの目の下には不健康そうなクマがしっかりと刻まれていたけれど、伊織さんにはそれがない。