花鎖に甘咬み



「ど、ドッペルゲンガーじゃなかった……」



ほっと胸をなでおろす。


だって、ドッペルゲンガーって3回見たら死ぬんじゃなかったっけ。あれ……それは、自分のドッペルゲンガーのときだったっけ。まあ、なんでもいいや。


とにかく目の前のこの男の人が花織さんとはまるきり別人だということはわかった。




「はは、きみ、面白いこと言うね」

「だって、あんまりにも生き写しだからびっくりしたんですってば……。心臓とまるかと」

「まあ、そっくりなのは否めないよね。DNAってすごいよねー、未だに花織の顔見ると、うわあって思うし」



でも、口を開けばほんとうに別人だ。

花織さんと対峙しているときには異様なまでに感じた空気がピリつくほどの殺気を、今は感じない。

むしろ、どちらかというと穏やかというか。




「ところで、きみ、名前は? 俺の情報網でも、まだそこまではわかんなくてさ。〈外〉の子なんでしょ? それもイイトコの育ちだって」




……この人、どこまで知っているんだろう。


まだ、私何も言っていないのに。

真弓とも『久しぶり』って言っていたくらいだから、連絡はとっていないはずだ。なのに、まるで見ていたかのように話す。




「北川、ちとせといいます」

「ちとせちゃん? へえ、いい名前だ」

「……っ!」



そのセリフ、どこかで。


『北川ちとせ、覚えたわ。いい名前やな』


────そうだ、花織さんだ。
双子ともなると、言うことまで似てくるのかもしれない。





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