花鎖に甘咬み



ぱくぱくと口に運びながら、考えるのはやっぱり伊織さんがさっき言っていたこと。


けれど、当の伊織さんは『この話は終わり』だと言わんばかりに口を閉ざしてしまった。きっと、これ以上真弓のことを探っても、伊織さんは話してくれない……そんな気がする。



あ、でも、ひとつだけ。

どうしても引っかかることがひとつだけ、あるのだけど……。



「あの、伊織さん」

「なあに?」

「花織さんって……どうして、真弓を狙うんでしょうか」

「花織?」

「さっきの話的に、花織さんにとっても、真弓は命の恩人ってことですよね。それなのに……なんでかなって」



双子の兄の伊織さんであれば、花織さんの考えていることも、少しはわかるかもしれない。

その予想は大当たりだったみたいで、伊織さんはさほど悩む様子もなく「ああ」と頷いた。



「別に、そんな難しい話じゃないよ」

「……?」

「答えはいたってシンプルだ。花織は、マユのことが好きで好きで仕方ないってだけ」

「……へ?」



それは、まったく予想外の回答。

訳がわからず、きょとんとする私に、伊織さんが補足する。



「花織は、マユがいるからって理由で〈赤〉に入ったからね。裏を返せば、マユがいなければ、花織にとって〈赤〉なんて何の意味もないんだよ」





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