花鎖に甘咬み



「ええと……」

「で、そのマユが〈赤〉を捨てた。それが花織には許せないんだよ。マユが〈赤〉からいなくなるのは、花織にとって居場所を奪われるのと同義だ。マユを殺して俺も死ぬ、とでも思ってるんじゃない?」

「いくらなんでも行き過ぎでは……」

「俺もそう思うよ。でも、あのコは昔からそうなんだよ。花織の愛は、えげつなく重くて過激。……つまりマユを狙うのは、愛ゆえにってヤツだね」



言葉を失ってしまう。
おおよそ、私には理解できない。


スプーンを動かす手すら、固まって動けずにいると、伊織さんが首を傾げた。




「……花織は、元気だった?」

「へ? あー……えっと、元気だと思います、よ。思いっきりナイフ振り回してましたし……真弓に蹴り飛ばされてましたけど」

「そう。それならよかった」

「伊織さんは、花織さんに会ってないんですか?」



双子の、お兄ちゃんなのに?



「花織は、俺には絶対会ってくれないよ。────あのコは、俺のことが、大ッ嫌いだから」

「え……」



仮面のようにスマイルを浮かべ続けていた伊織さんの表情が、一瞬、憂いを帯びたように見えた。ほんの、一瞬。

次の瞬間には鉄壁の笑顔に戻った伊織さんは。



「この話はこれでおしまい」




言外に『これ以上は踏み込むな』とシャッターを下ろされる。





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