花鎖に甘咬み
悪魔の煤けた相棒 (side M)
× × ×
【 SIDE/ 本城真弓 】
伊織にパシられて、醤油だの料理酒だの一通り抱えて戻る。裏口の戸を開けて、そこに広がっていた光景にチッ、と思わず舌打ちが零れた。
「おい」
「どしたん? マユ?」
笑顔を崩さず、悪びれずに首を傾げる伊織に軽く息をつく。
「余計なことすんなっつったろが」
「いや、言われてないねー。酒出すなとは言ってたんやけどなあ」
「盛ったのか」
「怖ッ。睨まんとってや。別に、眠くなるやつをちょこっとだけやし……軽くて副作用もないヤツやから、そんな心配せんでも」
カウンターに突っ伏してすやすやと寝息を立てている女────ちとせと、それを面白がるように見ている伊織。
それからちとせの目の前に置いたままになっている、食べかけの料理を見れば、考えなくとも状況は分かる。
大方、睡眠薬でも盛られたってとこだろう。伊織のよく使う手口だ────……ほんと、タチ悪い。正直、面と向かって刃向かってくる花織よりも、策士である分、伊織の方がやり合うには面倒なんだよな、普通に。
付き合いが長い分、伊織のことはよく分かっている。伊織が『軽くて副作用もない』と言うなら、本当にそうなのだろう。
────……それでも、不愉快なのには変わりなかった。