花鎖に甘咬み
ランプの光を反射して、金に輝くウォード錠の鍵。
普通の人間なら触れることすらためらってしまいそうなソレを、ひょいとつまみ上げて、伊織はまじまじと見つめた。
「コレ、抗争のスキに〈黒〉から盗ったってヤツやろ」
「ああ」
「で、どうなん? 結局、コレ使わんかったん?」
「使った。昨日な」
「へえ。〈外〉に出たんか」
回転寿司食いにな。
育ちのいいオジョーサマのくせに、寿司乗っけた新幹線のオモチャなんかに目をきらきら輝かせていたちとせのことをふと思い出して、ふ、と笑う。笑えるな、ほんと。
結局、ちとせが気に入って大量に食べていたのはハンバーグ寿司だったし。ガキかよ。面白すぎるし、無邪気なところが、可愛い。
寿司屋でのことを思い出していると、伊織が怪訝な顔をした。
「ちぃちゃんのこと、わざわざ〈外〉まで連れてったんやろ。で、なんで、連れて帰ってきた? 〈外〉に帰そうと思ったんやろ」
「ああ。帰すつもりだった」
本気でな。
肩にのしかかる重みと体温に、思う。本当ならコイツは今ごろこんなところにいないはずだった。〈外〉に送り出して、それが俺との今生の別れになっていたはず “だった”。
それが、全部過去形になっている。
「わかるよ、ちぃちゃんが帰るの嫌がったんやろ? ちぃちゃんは自ら望んでココに残ってるって感じやったしな。……けど、いつものマユなら、ちぃちゃんが粘ったって、突き放したはずやろ。〈外〉に置いてきたはずや。どんなに粘ったってちぃちゃんは普通の女の子や、マユに勝てるわけない。マユは、“突き放せた” のに突き放さなかった」