花鎖に甘咬み
あんな戯言、真に受けたわけじゃない。
第一、あれを言われたのはもう昔のことだ。とっくに忘れていた。ふと思い出したのは最近だ。
いや、最近というより、昨日だな。
『来いよ』
『助けてやる』
怯えた目で、震えながら、それでも毅然として俺を見つめたちとせに手を差し伸べた。そのとき、燈の言っていたことがふっと頭の中をよぎった。ただ、それだけのことだ。
ちとせを隣に置くことで、彼女を保護することで、燈の言うことも理解できるようになるかもしれない。何かが変わるかもしれないと、少しだけ、あのとき、思った。
「けど、マユは本当の意味で燈の言っていることが解ったワケじゃないやろ。“守りたい存在” がどういうものなのか、マユは全ッ然解ってない。────くせに、ちぃちゃんだけは、隣に置こうと思ったワケ?」
「……」
「ちぃちゃんの、何が特別? 何にもこだわりのないマユが、わざわざちぃちゃんを隣に置いてみようと思った理由はなんなの」
「別に、わざわざ言わなくてもわかるだろ」
「はあ?」
そんなことも、わかんねえの?
どう見たって、そうに決まってる。
「────普通に、めちゃくちゃ綺麗だからだろ。ちとせが」