花鎖に甘咬み


それが、美しいと思った。
もっと近くで見てみたいとそそられた。



『女、死にたくねーなら伏せときな』



〈黒〉の銃口からちとせを逃がそうと体が動いたのは、単に私欲からだ。


俺が助ければ、ちとせがどんな反応をするのかが気になった。ころころと表情を変えるちとせが、次にどんな表情をするのかを見たいと思った。

あわよくば、ちとせの視界に入りたいと思った。……〈猛獣〉と喩えられる俺に、ちとせがどんな反応をするかを知りたくなった。



『っ、知らない人には着いていっちゃダメなんだってば……!』



正しく怯えながらも、ちとせの目は輝きを失わなかった。



『真弓』



なんにもわかっちゃいない顔しながら、俺をまっすぐ見つめて名前を呼ぶ姿にぐっときた。


いちいちトンチンカンな発言したかと思えば、妙なところに突っかかってくるし、危機感はねえわ、危なっかしいわ、全てがちぐはぐで、でもそこがなんかツボにはまって。




『私が真弓のことを信じるのは、真弓が私にとって、たったひとつの希望だから』

『端から抗うのをあきらめて傅くなんて、私はぜったいにイヤ! 私がどう生きて、誰のそばを選ぶのかは私が自分で決めるの! 運命なんてねじ曲げて、蹴っ飛ばして生きていくの!』




俺みたいな危険な男に懐いて、アッサリ信じきって、コイツは救いようのない馬鹿だ。
こんなところにいるより、帰った方がぬくぬく暮らせるに決まってるのに、自ら居場所を捨てるなんて馬鹿だ。



だけど、その全てが、あまりにも綺麗だった。





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