花鎖に甘咬み
アホみたいにキラキラ輝く目も、手入れが行き届いた細っこい髪も、ぴんと伸びた背すじも、まっすぐ凛とした声も、ばか正直に紡ぐ言葉も、意志の強さも、心のど真ん中まで。
何にも染まらず、染められず、透き通った透明色。
この世に存在するどんなものよりも、綺麗だと思った。
汚れきったこの街の中では、余計に、そう見えた。
「綺麗なモノは手元置いておきたいって思うのが、普通だろ」
あわよくば、四六時中眺めていたいって思うだろ、当然。
要するに、手放すのが惜しくなった。
「普通っていうか……、マユ、それさあ」
怪訝な顔をした伊織は、一度、ためらうように言葉を区切る。
顎で先を促せば、「はー……」と息をついて、伊織が続きを紡ぐ。
「……さっきから、ちぃちゃんへの盛大な愛の告白に聞こえるんやけど。気のせい?」
「は」
「まあ、気のせいやろーけど。マユに限ってそんなワケないよな。ちぃちゃんが誰を好きになろうが、誰と将来一緒になろうが、どうでもいいんやろ、どうせ」
ああ、と肯定しかけて、なぜか言い淀む。
惚れた腫れたは専門外だ。周りのヤツらで勝手にやってりゃいい。その考えは今も全く変わらない。
が、ちとせを引き合いに出されると、無性にイライラする。
つか、伊織はどの口でちとせのことを語れるんだって話だ。恋だの愛だの今のちとせにはこんな街にいる限りそんな余裕はねえだろうし、しばらく俺の傍にいるのは決定事項なワケだし。