花鎖に甘咬み



考えるだけ考えた挙句、口にはしなかった。直接言葉にすると、なんつうか、重たく聞こえる気がして、気が引けた。


伊織がそれ以上食い下がることもなく、沈黙が訪れる。

コトン、と無言で出された焼豚をつまんでいると、ふいに伊織が口を開く。



「花織は、元気やった?」

「ああ。アイツは相変わらずだな」

「そう」

「んな気になるなら、会いに行きゃーいいだろ」

「……」



伊織が押し黙る。

伊織と花織の確執のことは勿論知っている。コイツが花織に会いに行けないことを知っていて、あえて意地悪を言った自覚はあった。伊織が勝手にちとせに睡眠薬を盛ったことに対する多少の報復だ。




「花織は、やっぱ俺のこと、嫌いなんやろな」

「なんだよ。途端にしおらしいな」

「分かってるだろ。俺は、花織のことになると、こうなんだよ」



ああそうだな、と心のなかで相槌を打つ。


双子の事情にわざわざ介入してやるほど俺は物好きでも、かいがしくもないわけで、ただ、コイツら双子が〈薔薇区〉にやって来た当初からなんだかんだ近くにいたせいで、多少なりと双子のアレコレについて知っている。


仲を取り持ってやるつもりはさらさらないが、そもそも、宍戸双子は “仲が悪い” とはちょっと種類が違うんだよな。



「花織は別に、お前のこと、嫌ってるわけじゃねえだろ。たぶん」



嫌いというより、コンプレックスなんだろ。
花織の言動の節々からそれが透けて見える。





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