花鎖に甘咬み
「……そういうとこやろ」
「なんだよ」
「いーや? マユはなんもわかってないなあーって話」
「……はあ?」
怪訝な顔をする俺は無視して、伊織がカウンターから箸を伸ばす。俺に出した焼豚をひょいとつまんで「うま、さすが俺」と自画自賛していた。
たしかに美味いけど。つか、それ俺の焼豚。
「ああそうや、燈からマユに伝言」
焼豚を飲み込んだ伊織が、思い出したように口を開く。
「〈白〉が妙な動きしてるってさ。アイツらもともとマユに目ェつけてるし、マユの周辺嗅ぎ回ってるし、おそらくオンナ連れってこともすぐに割れるだろうって。近々、何か仕掛けてくると思う、だと」
面倒な、と嘆息する。
と、肩にもたれかかるちとせが、もぞもぞと身じろぎした。
薬の切れ目だろうか。この調子だと、もうすぐ目覚めそうだな。甘やかすみたく前髪のあたりをくしゃっと撫でてやると、また、すー……と穏やかな寝息が聞こえてくる。
そんなちとせと俺を見比べて、伊織が目を細める。
「ちぃちゃんの存在が、〈白〉に利用される可能性も全然あるってこと。マユ、わかってる?」
「今更だろ、そんなもん」
「違うよ」
はあ、とため息をついた伊織がちとせの呑気な寝顔をじっと見つめて、ぽつりと呟いた。
「万が一のときの話をしてんだよ。覚悟はできてるのかって」