花鎖に甘咬み
ふー……と伊織が薄く息を吐き出した。
「マユが手を離さない限り、ちぃちゃんは堕ちるとこまで堕ちてくよ。見たくないものを目のあたりにするハメになるか、よく知りもしない男たちに痛めつけられて蹂躙されるか……。逆に、マユが手を離せば、ちぃちゃんが望むか望まないかは別として、帰る場所はある」
言いたいことを全部吐き出したのか、伊織がそこで口を閉ざす。
返すべき言葉が出てこない。
そして気づく、俺の中には伊織を納得させられるだけの言い分がないのだと。
黙る俺に、伊織がなにか言いたげに口を動かしかけて、止まる。
「む……うぅ、まゆ、み……?」
ぱち、とちとせの瞼が持ち上がった。
寝起きのかすれた細い声が、鼓膜にやけに甘ったるい。
思わず、顔を近づけて至近距離で覗き込む。
眠気にとろんとした瞳は、それでも、相変わらずキラキラしていた。やっぱ、いくら見ても、飽きねえな。
「はよ」
ぼーっとしているちとせに声をかければ、長い睫毛がふるりと震えた。なにその反応、面白いな。
ちとせは数回、ぱたぱたと瞬きを繰り返して、それからもとからわりと大きな瞳をさらにひと回り大きく見開いた。
「な、え、まゆ、ちか……っ」
言葉になってない。