花鎖に甘咬み
戸惑い、はくはくと口を動かすちとせが、首の根元からじわじわと顔を赤らめていく。
りんごかよってくらい頬を真っ赤に火照らせたちとせが、ぐいぐいと俺の肩を押して引き離そうとしてくる。
「真弓、ちかい……! 離れる……!」
「さっきまで俺の肩ですやすや眠ってたのは誰」
そう簡単に離してやるかよ。
そもそも力比べでちとせが俺に勝てるはずもなく、結局ぼすっとちとせの小さい頭を胸のあたりに埋め込んでやった。
耳まで真っ赤にしていて、ただ距離が近いというだけでこんなになって慌てふためくちとせが可愛い。
なんつうか、かき立てられるんだよな。嗜虐心とか欲とか、そういう本能じみたものが、ちとせを見ていると、どこからかむくむくと湧き上がってくる。
「は! ごめんなさい、私、こんなところで眠ってしまって」
俺に抵抗している途中で、ぱ、と我に返ったように顔を上げたちとせは、伊織に向かってぺこりと頭を下げた。
「なんで、眠っちゃったんだろう……。伊織さんと話していると急激に眠たくなって、そこまでは覚えてるんですけど……」
「寝不足だったんじゃない?」
むう、と考えこむちとせに伊織がさらっと首を傾げた。
……相変わらずポーカーフェイスが上手いことで。お前が薬盛ったくせになにが 『寝不足だったんじゃない?』だよ。
「そう、ですかね……? でも、私、普段こんなことなくて、シャキッと目覚めたらそのまま夜までシャキッとしていられるんですけど」
「まあ、ココは不慣れな場所だからね。リラックスできてないってのもあると思うよ」
あくまで、しらばっくれるらしい。
よくもまあ、白々しい嘘をつけるよな、とげんなりする。
伊織はこれで、まったく悪気のないところがさらにタチが悪い。