花鎖に甘咬み



「はあ……そうなのかも、しれない、です」



納得したのか、納得していないのか、曖昧に頷いたちとせは俺の表情を伺うようにちらりと見上げてきた。

軽く頷いてやると、ほっとちとせの頬がゆるむ。

安心しきったその笑顔に、胸のあたりが妙にくすぐったくなった。



それから、少しの罪悪感に苦くなる。
「伊織が薬を盛った」なんて、もう口が裂けても言えねえな。



花畑みたく呑気ににこにこしているちとせを変に怖がらせたくない。わざわざ顔を曇らせるようなことを言う気にもなれない。コイツは、せいぜいアホみたいに笑っとけばいいんだよ。



「ちとせ、行くぞ」

「わっ」



自分のよりも、ひと回り……いや、ふた回りは小さい手のひらを掴んで、引く。



「もう行くのっ?」

「ああ。もう用は済んだ」



ココにいても仕方ないだろ。

この場所も、安全じゃない。
伊織が集める “情報” 欲しさに有象無象が次から次へと訪れる場所だ。そいつらと鉢合わせたくなければ、さっさと出て行ったほうがいい。


第一、これ以上ここにいたところで、伊織の暇つぶしに使われるだけだしな。
あいにく、ちとせを伊織のオモチャにくれてやるつもりもないワケで。




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