花鎖に甘咬み


ひょいひょい奪われていく。

代わりにぽんぽん真弓の持つ袋に放りこんでいくから、真弓の袋がぱんっぱんに膨れていてキャパオーバー寸前である。



「も、持てるよ! ぜんぜん重くないよ!」

「どの口が言ってんだ」



ふらふらよろめく千鳥足を見逃さない真弓が、私の持っている荷物が十二分に軽くなるまで食材を移動させた。



「別にいいのにそんなの」

「俺が見ててヒヤヒヤすんだよ、そのうちすっ転んで全部ぶちまけるだろ」

「ええっ、信用ないなあ」

「信用してないんじゃねえ、心配してんだ」



え、と思わず言葉につまる。

「心配」なんてワードが真弓の口から飛び出てくるとは思わなかった。こういうところ、やっぱり、私にはどう考えたって真弓は、優しく見えるけれど……。



『真弓は────優しい、んですね』

『さあ、どうだろーね』



伊織さんは、どうしてそう思うんだろう。真弓の何を知っていて、あんなことを言ったのかな。




「ほら。これ持っとけ」




真弓から返ってきた袋は、びっくりするくらい軽くなっていた。持ちたい、という私の希望どおり、一応は持たせてくれるみたいだけど、荷物のほとんどは真弓のところにいってしまった。


思ってたのとなにか違うけど……でも、心は満たされた。

ふふ、と笑みをこぼすと真弓もどこか満足気な顔をする。



と、そのタイミングでどこからともなく楽器の音が流れてくる。




「……?」




なんだろう、この音。





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