花鎖に甘咬み



まさか、と思った次の瞬間には、私を雑に担ぎあげた本城真弓という名の彼は、足を踏み出していた。



疑うよりも先に落ちていた。

文字通りの“落下”。




「っ、きゃあああああっ!!」

「ッルセエ、響くだろーが」

「いやいやむりむり死ぬ……っ!!」




そう、彼が迷いもなく飛び込んだのは、行きどまりの崖の先。崩れ落ちて道がなくなったその場所に、なんのためらいもなく。



内蔵がふわっと浮く感覚に、本気で、命の危機を感じた。絶叫する私の口を、器用に彼は手のひらでそっとふさぐ。



数秒間の落下時間が、永遠のように長かった。
タンッ、と軽やかな音を立てて彼の足が地につく。



その瞬間まで、生きた心地がしなかった。




「っ、ありえない!!!」




無事に着地できたから、よかったものの。

なにかの間違いで頭から着地していたらどうするつもりだったの。頭蓋骨もろとも木っ端微塵だった、ぜったい。




「どう考えても飛び降りた方が早いだろーよ」




非難の声をあげる私に向かって、当然のことのように、そう言ってくるけれど。

私は首をふるふると横にふる。


まだ心臓がいやにバクバクしてるもん。




「……っ、お願いなので、安全第一でお願いします」

「わかった、善処はする」




ほんとうに?
心のなかで首をひねってしまう。


このひとの手をとることに決めたのは私だけれど、信じて大丈夫だったのだろうか、と今さらながら不安になってくる。





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