花鎖に甘咬み
「説明すると長くなる、面倒」
「面倒、って……」
じゃあ、そんな面倒ごとに巻き込まれている私はどうなのって話である。せめて、こんなところに連れてこられた理由のひとつやふたつくらいわからないと、納得できない。
……説明されて、納得できるかどうかはまた別として。
「強いて言うなら、お前が〈猛獣〉の女だからだな」
「……え、と。真弓の女……って」
「女は女だろ。〈猛獣〉が寵愛してるって点で唯一無二の」
目が点になる。
きょとんと一瞬、フリーズしてしまった。
「ち、違いますよ!!!」
首を勢いよく横に振ると、椅子がガタゴト音を立てて揺れる。
勢い余って縛られた椅子ごとバタンと倒れかけて、青葉さんが「っぶねーな、大人しくしてろ」と寸前のところで立て直してくれた。
ただ、私はそれどころではなく。
「勘違いです! 真弓と私が一緒にいるのは、利害が一致したからで……。だから、真弓が私のことちょう、あい、とか……違いますからね!?」
「お前、声デケエな。耳キンキンすんだけど」
「そうじゃなくて!」
「あのな、わかってないのはお前の方だ」
ぴんと伸ばした人差し指で、青葉さんは私の鼻先にとんと触れた。
わかってない……?
なんのこと?
「なんで、お前を攫うなんて不粋なマネしてまで〈白〉が強引にコトを進めるかわかるか。〈猛獣〉が隣に、人間を連れてることがそれほどイレギュラーだからだ。〈薔薇区〉の人間なら誰だって思うぞ、ありえない、異常事態だって」
青葉さんが私の髪束を、指先に巻きつけて弄ぶ。
真弓が結んでくれた、ポニーテール。
「とにかく、お前は〈猛獣〉にとって特別な女で間違いない。寵愛を受けてるのと同じだ」
「や、ちが……っ」
「あー、はいはい。これ以上、反論は受けつけてねえから。気になることがあんなら、純圭サンに直接聞いてどーぞ。どうせ、このあと純圭サン来るんだし」