花鎖に甘咬み
投げやりに言ってくる青葉さん。
ところで、気になるのは……。
「あの。スミカさんって、誰……ですか?」
青葉さんとミユキさんの口から、ちらほら登場する度に気になっていた。スミカさんって、いったい何者なの?
疑問をそのままぶつけると、青葉さんはぎょっとしたように目を見開いた。
「お前そんなことも知らねえの?」
「え。……はい」
「はー……。マジかよ、変な女」
「え゛っ」
とつぜんの「変な女」呼ばわりはさすがに聞き捨てならない。
むくれて、ジロリと青葉さんに視線を流すと、やれやれ仕方なく、という感じで説明をしてくれた。
「倉科純圭。キールの絶対的なトップ。俺ら白薔薇は純圭サンを頂点に成り立ってる」
『〈白〉にはたったひとり、絶対的な頭がいるんだよ』、そう言っていたミユキさんを思い出す。その絶対的なトップが純圭さんということだ。
「冷酷無慈悲、目的のためなら手段を選ばない。自分の理想の為なら、他のすべてを切り捨てることができる。残酷で孤高、あるイミ、無敵」
「全然……想像できない」
「会えばすぐわかる。圧倒的だからな。〈薔薇区〉の勢力の天秤を均衡に保ってる、純圭サンと一ノ瀬燈……と、イレギュラーで〈猛獣〉。この3人は俺らとは全く別物だ」
ちらり、と青葉さんは扉の方に視線を流す。
「お前の肩を持つわけでも味方するわけでもねえが、純圭サンの前では言動に気をつけろよ。その場で首が飛んでもおかしくねえぞ」
「……! お、脅さないでくださいよ!」
「いや、これはマジ。んで、そうなっても俺もミユキも仲裁に入らねえから、自己責任でよろしく」
「……っ、うそ」
ふるり、縛られたままの手が震える。
でも、ここには頼るべきひと────真弓はいない。
きゅっと唇を噛みしめて震えをとめる。
「ただ、純圭サンにはひとつ弱点があって────」
青葉さんがなにか言いかけた、そのタイミングで、ガチャン、と戸の開く音がした。青葉さんはすぐさま口を噤む。
部屋の温度が一瞬にして下がったような気がした。
カツ、カツ、カツ、と高圧的な足音が部屋に響いて、目の前に影が色濃くふっと落ちる。
とっさにうつむいたまま、顔を上げられずにじっとしていると。
「面を上げろ」
低く、氷のような声。
空気がビリビリとふるえるほどの威圧感は、逆らうことを許さない。ゆっくり、顔を上げると、声の持ち主と目が合った。
薄い唇が開いて、また、氷の声が響く。
「コレが本城の女か」