花鎖に甘咬み
わかりきったことをいちいち聞くな、と言わんばかりにぴしゃりと断言されてしまう。
拒否権がない時点で、人権とはなんぞや、と言いたくなってしまうけれど、ここはぐっと堪えた。
なんでもかんでも噛みついてちゃだめなんだってことくらいは、さすがにわかっている。相手の要求を飲みつつ、どうしても譲れないときだけ反撃するんだって、いつか、お父様が言っていた。
お父様には思うこともいろいろあるけれど、数多のお偉いさんを相手にいくつも交渉してきたことは事実で、交渉術的な腕は信じてもいいと思う。
私までその道具に使おうとしたことだけは、ほんとうに、許せないけどね。
「純圭さんは、なにを企んでいるんですか。私を使って……なにをしようとしてるんですか?」
ド直球ストレートを投げてみた。
それをものともせず、顔色ひとつ変えず、純圭さんは淡々と答える。
「囮だ。お前には、本城をおびき寄せる餌になってもらおうと思ってな」
「おとり……」
「要するに、人質ってことだよ」
純圭さんの隣に立つミユキさんが口を挟む。
「本城の女をくくりつけておけば、多少は釣れるだろ。あとは、目の前でなぶるか痛めつけるかすれば、本城にも隙くらいは生まれる」
真顔ですごく怖いことを言ってくる。
それはそうとして、やっぱりひとつ、訂正したいのは。
「あの……私、べつに真弓の恋人じゃ……ないですよ?」