花鎖に甘咬み


事実を言ったまでなのに、なぜか純圭さんは呆れたような目で見てくる。意味がわからない。



「な……なんでそんな目で見るんですか」

「寝言は寝て言えと思ってだ」

「は……はあ? 起きてますけど……ばっちり」

「にしては、寝ぼけたことを言うのな」



氷海の目が、私をじろりと見つめる。

視線の先を追ってみれば、私の首もとにたどりついた。



「そんだけ派手に本城の噛み痕をつけといて、って話だ」

「え……?」

「首。本城だろ」



純圭さんが、自らの首すじをトントンと示しながら目を細める。

それで、何のことを言われているか、やっとわかった。


伊織さんにも指摘された、あの紅い噛み痕のことだ。



「えと……はい」

「がっつり痕つけといて、本城とは何もありませんって。んな御託、誰が信じる?」



え……?

まさか、この痕があるから、〈白〉のひとたちは私を真弓の恋人だと思うってこと?

でも。



「真弓が噛むのは、昔からのクセだって……。私だけじゃなくて、他の誰でも同じようにするから、べつに特別ってわけじゃ」



噛みつきグセなんだって。
伊織さんがそう言ってた。



「お前、なにも聞かされてねえのな」

「へ?」

「言いそびれてるだけか、敢えて黙ってんのか、俺にはソッチの生ぬるい感覚は理解できないが」







< 177 / 339 >

この作品をシェア

pagetop