花鎖に甘咬み
「い、意味がわかりません……」
「なら、わかるように言ってやる。本城は誰彼構わず噛みつくわけじゃない。現に、俺もコイツら────他の〈白〉の連中もそれなりに本城と接触する機会はあったが、噛みつかれたことは一度もない」
「はあ……」
気の抜けた返事をする私を、純圭さんの氷海の目が鋭くとらえた。
「知らなかったか? 本城が噛み痕を残すのは、アイツが特別に思っている人間だけだ。どうでもいい奴にはしない。本城が執着してる人間にだけだ、昔から」
これには思わず目を見開く。
純圭さんは骨ばった男のひとっぽい指を折りながら数える。
「一ノ瀬燈に、宍戸兄……ああ、弟の方もか。俺が知る分にはそれだけだ。奴らは本城との付き合いも長いからな。────だが、そこに突然、女が加わった」
「……私のことですか」
「本城が女にそんな風に構うところを見たことがない。それも、会ったばっかの女、余所者。孤独を好む〈猛獣〉がそこまで執着するってことは、お前は、本城の女で違いねえんだよ」
“孤独を好む” ……?
その響きに違和感を覚える。
でも、それより。
「えと……それで私を捕まえて、人質にしようと……?」
「端的に言えばな」
肯定する純圭さんに、ひとつ思う。
「でも、真弓は……来ないと思います」