花鎖に甘咬み



「あ?」

「その担ぎ方は……ちょっと……や、です」




言うと、本城さんは眉をわずかにひそめた。

だって、お腹が押しつぶされて、ぐえってなるんだもん。息も、しにくい。




「ったく、注文多いな」




面倒そうにしながらも、肩から下ろして、抱え直してくれる。見た目はそうは見えないけれど、なんだかんだやさしいひとなのかもしれない。



肩と膝の裏にじんわりと体温を感じる。
16年ちょっとのお嬢様生活でもさすがに経験したことがなかった。……これが、お姫さまだっこ。



涼しげな瞳とかちり、視線がかち合う。



体勢的にはさっきよりも、ずっと、楽だけど。
これはこれで、距離がちかく感じて、くすぐったくて、なんか……。



目を合わせたままではいられなくて、そろりと視線をはずした。




ゴツい黒の靴に、同じく黒の闇に溶けるような衣服。身軽で、荷物もなさそう。
アクセサリーはひとつもつけていないけれど……たぶん、シルバーとか、似合うだろうな。



たとえば、このブローチとか。



ふいに存在を思い出して、ワンピースの胸元に留められている小さなブローチを目で探った。


すずらんの花があしらわれた純銀のそれは、この宵闇のなかでも光を拾い集めて輝きを放っていた。




……これも、もう、必要ないな。




北川家の次代当主が身につけるといういわくつきのブローチだ、ほんとうなら、私の婚約者になるひとに私がこの手で渡さなければならなかったもの。




たしか、すずらんの花言葉に意味がこめられて────ええと、なんだったっけ。

忘れてしまったけれど、もういいや、思い出す必要もないこと。




改めて私を抱えあげる本城さんの姿を、つー、と、頭のてっぺんからつま先まで目で追ってみる。



何歳、くらいなのだろう。

確実に私よりは年上だと思う、けれど、歳は離れているようにも、近いようにも見える。



何をしているひとなのだろう。
どうして、私のことを助けてくれたのだろう。



────そもそも、わからないことばかり。





「あの、本城さん」

「真弓でいい」





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