花鎖に甘咬み
ひとりでいることが、理想、なんて。
真弓はそんな風には見えない。
伊織さんと話しているときも、私の手を取ったときも。
それは、“孤高” とは矛盾している。
「お前は、本城の本当の姿を知らないだろう」
純圭さんが、再度口を開く。
「今ではかなり落ちついたがな。本城が〈薔薇区〉に入れられた当初は、相当荒れていた。目についた物は破壊する、人が傷つくのも厭わない、アイツが通った場所は目もあてられないほど滅茶苦茶でな。それでも自分以外どうでもいいって顔して平気な顔してんだよ、本城は」
それで、誰かが〈猛獣〉だとそう呼んだ。
「あまりに暴れるもんだから、速攻要注意レッテルだ。上からの指示で〈黒〉の連中が奴を狩ろうとした。俺と一ノ瀬がふたりがかりで本城を制圧するのが先だったがな」
過去を思い出すように、純圭さんが目を細めて語る。
「目の前で、本城は生気を失ったうつろな目で『もうどうでもいい』って、それだけ呟いた。そのとき思ったよ、本城は使える。コイツは〈白〉側の人間だってな」
どういうわけか、〈赤〉に取り込まれたわけだけど、と純圭さんが独りごちる。
「本城は獣だ。人心を不要だと切り捨て、孤独に生きる。ときに非道になれる。この街ではそういう奴が強い。俺の目的を果たすための駒として、本城は有用だ。だから、欲しい」
「……真弓は、そんなひとじゃ」
「へえ、お前の目には奴がそんなに生ぬるい人間に見えるか。だが、残念だったな。本城は紛れもなく獣だ。────ああそうだ、奴が〈赤〉を抜けたことは知ってるだろ」
こくり、首を縦に振る。
くわしいことは知らないけれど、もう真弓は〈赤〉には所属していないんだということは、知っている。
「本城に、誰かと共に生きる、なんて向いてないってことだ。奴にはこの街に来たときと同じ、一匹狼がお似合いだ。実際、本城が〈赤〉から抜けるタイミングで起こった抗争は、本城が起こしたも同然だったからな。〈白〉に情報を売って、奴は〈赤〉を去った」
「……っ、そんな」
「仲間を見捨てるのも裏切るのも、本城にとってはどうってないことなんだよ。そもそも仲間とも思ってない。奴は、そういう男だ」