花鎖に甘咬み



ぎゅ、と唇を噛む。
そんなことない、って言い返したいのに。


思い返せば、伊織さんにも花織さんにも、私にも。


真弓はいつもどこか一線引いているような気がするのも事実だった。たとえば、真弓がどうして〈薔薇区〉にいるのだとか、〈薔薇区〉に来るまでのこととか、家族のこととか。



パーソナルな話になると、踏み込むな、とでも言わんばかりに真弓は口を閉ざしてしまう。




「……っ」

「他に、聞きたいことは?」




冷たい眼が私を見下ろす。

その蔑むように見下した視線より、真弓が私に向ける瞳の方が、よっぽど温かいと、この期に及んでも思うのだ。

……でも、私は、ほんとうの意味で真弓を知らないだけなのかもしれない。




「そもそも、〈赤〉と〈白〉はどうして争うんですか? なんのために?」




純圭さんの左薬指にくっきりと刻まれた白薔薇を見つめて、問えば、ポーカーフェイスの冷たいその顔がはじめて色付いたように見えた。



「何の為、か。面白いことを聞く」



右手の指で、白薔薇の輪郭をなぞった純圭さんは、浅く息をついた。心なしか空気が重くなる。ミユキさんも、青葉さんも、ただじっと息をひそめていた。



「意味などない」

「無意味、ですか……?」

「いや、違うか。強いて言うなら……」



純圭さんの氷海の目が、私の瞳の奥を覗き込む。

カチリ、と何かがはまったような幻聴を聞いて、たった今、はじめて、純圭さんとほんとうの意味で目が合ったような気がする。


おかしいな、この部屋に純圭さんが入ってきた瞬間から、何度も視線は合っていたはずなのに。



「生きている実感が湧くから、かもしれんな」





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