花鎖に甘咬み
純圭さんが、低く零した声に、しぱしぱと瞬きをする。
言葉の意味がよくわからなかった。
「生きて、いる……?」
「ああ。殴られ蹴られれば、多少痛みは感じる。血も流れる。脈がドクドク打って、それで、ああまだ俺は生きてんだなって思える」
バイオレンスだ。
純圭さんの語る内容に、若干引きながら、おずおず口を開く。
「あの……。それ、って、殴られたり蹴られたりしないと思えないんですか?」
「……」
「生きてる、って。私は、そんなことしなくたって、自分が生きてることくらいわかりますけど」
思ったまま、正直言うと。
純圭さんはわずかに目を見開いた。それから少し、目つきが変わる。あれだけ冷たく鋭かった瞳に、あたたかさが宿ったような気がした。
「たしかに、お前はそうかもしれないな」
「えと」
「だが、〈薔薇区〉の人間はそうじゃない。ありとあらゆるものを奪われ、搾取され、たどり着いたこの街に閉じこめられた人間は、一度死んだも同然だ。そして、またこの街で搾取されるうちに、ほとんどの人間は生きている実感すら忘れてしまう」
哲学……?
並べ立てられる難しい言葉たちに、訳がわからない、とぼけーっとしていると、純圭さんがまた氷のような表情へと戻っていく。
「お前も、ココにいれば、いずれそうなる。そのときが見ものだな?」