花鎖に甘咬み
私も……?
きょとんとすると、純圭さんは苛立たしげに息をついた。
私、なにか、癪に障ることでもしてしまっただろうか。
いや、それよりも。
「あの……、遠くないですか?」
さっきからずっと気になっていたのだけど。
遠いのだ。
私と純圭さんとの距離が、物理的に。
白くだだっ広い箱部屋の、ほとんど端と端同士。
声がぎりぎり届く遠さで、おそらく会話をするのに適切な距離じゃない。なにか理由があるのかもしれない、と思っていたけれど……。
「……」
純圭さんが黙ったまま、睨みつけてくる。
な、なに……?
戸惑いながらも、言葉を重ねる。
「あと、できれば、椅子を起こしていただけると……」
ずっと半身を床にくっつけたままで、さすがに体が痛い。
贅沢を言うと、手足の紐もほどいてほしい。……それは無理だろうけど。
じっと純圭さんを見つめてみるけれど、何も答えない。
「……?」
突然訪れた静寂に、不安になって、近くにいた青葉さんを見上げる。すがるように視線を送る私に青葉さんは眉間にわずかに皺を寄せて、ぎりぎり私にだけ聞こえる声量で囁いた。
「言ったろ。純圭サンにはひとつ、弱点があるって」
「は、はあ……」
たしかに言っていたような。
結局なんだったのか、聞きそびれちゃったけれど。
「女だ」
「……へ?」
「純圭サンの弱点は、女」