花鎖に甘咬み
「え……と」
「真弓」
名前で、呼んでいい、ということ、なのかな。
呼んでいい、というより呼べ……ってこと?
唐突すぎる指示に頭を混乱させている間も、彼は大人しく私の返答を待っているから。
ついに、観念して。
「真弓、さん」
「 “さん” は要らねえ」
「えっ、でも……」
呼びすて……?
それは、さすがに、ためらってしまう。
だって、ついさっき出会ったばかり。
おそらく年上のひと。
それに今までずっと、両親と使用人たち以外には敬称をつけるようにと教育を受けてきた。呼びすてなんて、はしたないことだって……。
「“本城さん” で7字、“真弓さん” で5字、どっちにしろ長くてウザってえんだわ」
な、と同意をもとめられる。
そこでハッとした、そうだ、そうだった、私はもう“お上品”に縛られている必要なんてない。
おずおずと口を開いて、動かした。
「……真弓」
たった3文字に、なぜかドキドキした。
「上出来」
「あのっ、失礼じゃない、ですか……?」
「こっちはもうお前のこと拾ってんだよ。……んで、その堅苦しい敬語もナシな」
「う、え」
「あいにく俺は敬われるような出来た人間じゃねえんだわ」