花鎖に甘咬み
時代錯誤も時代錯誤。
私ひとりにこれだけの────ざっと数えても両手じゃ足りないほどの執事をつけて監視させている時点でおかしい、ずっとそう思っていたけれど。
極めつけは先ほどの夕餉のときのこと。
白身魚のソテーにナイフを通して、まさに口に運ぼうとしたとき、父の口からそれは放たれた。
『ちとせ、明日の予定を空けておきなさい。お前の婚約者と会わせようと思っている』
『……!』
『前から言っていただろう、18になったら、お前には嫁がせる。お前はまだ16だが……、森宮家のご子息がぜひちとせを嫁にと望んでいてな。森宮は古くからの良家だ。北川家としても申し分ない。そこで、まだちと早いが婚約という形で話を進めようと────』
冗談じゃない。
頭のなかでぷつんとなにかが切れた。
手からすべり落ちたナイフとフォークがお皿にぶつかって、カシャン、と音がする。
『私っ、お父様が決めた相手となんて結婚しないっ!』
『親にたてつくな。それに、これは両家の合意のもとで決まったことだ。森宮も相手にするつもりか? お前のような小娘が?』
信じられない、ありえない。
私に確認のひとつもとらないで、勝手に結婚相手を決めておいて? それで抗議のひとつもゆるされない? そんなの、ふつうに人権侵害だ。
親の決めた結婚なんてごめんだわ。
それも、政略結婚なんて愛も夢もない。