花鎖に甘咬み



外側から包囲網が乱されていく。



鈍い衝撃音と、ひとが倒れる男と、ときおり短く上がる悲鳴と。

混乱に満ちた空間のなか、なにが起きているかさっぱり見当もつかない私は、ただただ真弓の言いなりになるしかない。


相変わらずはちゃめちゃに鉄パイプを振り回しながら、際どい攻撃を真弓に弾いてもらっていると。




「真弓」




分厚く私たちふたりを囲っていた、人壁の一部に、とつぜんぽっかり穴が開く。


唖然とする私、同じように驚いて固まる〈白〉のひとたちをものともせず、たった今生まれたばかりの通路を、すたすたとこちらに向かって歩いてくる人影ひとつ。


その姿に、真弓は薄く息をついた。



「遅えよ、(あかり)



アカリ。

呼ばれたそのひとは困ったように笑う。



「バイク勝手にパクっといてよく言うよ。場所もろくに伝えずに飛び出してくから、後追うの苦労した」

「苦労したって顔じゃねえだろ」



暗赤色の髪を揺らし、肩をすくめるのは、私と同じくらいの体格の男のひと。顔つきが幼くて、私よりも年下に見える。

声も、男のひとにしては高めのアルト。


むしろ、中学生くらいに見えなくも────。




その童顔に似合わない、大人びた目つきで、彼がたった今人垣につくった通路を見下ろした。

倒れているのは、彼が崩したいくつもの人影。
きっと無傷ではないはず。





「手荒な真似はしたくなかったんだけどね」





< 206 / 339 >

この作品をシェア

pagetop