花鎖に甘咬み



汚れた手をはらうように、ぱん、と手を打った。

それから、にこ、と無邪気に笑う。




「仕方ないよね、真弓の頼みだから」

「頼み……?」




思わず首を傾げると、彼の視線が真弓から私へと移った。




「なるほど。この子が “ちぃちゃん” ?」

「え、どうして」

「伊織から聞いた」

「伊織さん……? えっと」




あなたは一体。


そう訊ねる前に、まるで心を読んだかのように、目の前の彼は口を開いた。




「一ノ瀬燈。はじめまして、“北川ちとせ”ちゃん」

「燈、さん」




妙に耳なじみがある、と思ったけれど、そういえばちらほらとそこかしこで“アカリ”という名前が登場していたような……。

なるほど、このひとが、燈さん。




「ほんとはもっとちゃんと自己紹介したいところなんだけど、今、それどころじゃないからね。信じろ、って言われても難しいかもしれないけど、とりあえず一旦僕のことを信じてくれない?」

「えと」



とつぜんのことに戸惑う私。

なだめるみたく、燈さんの手のひらが私の頭の上に乗りかけて────。



「おい、触んな」



なぜか、真弓がガシッと燈さんの腕を掴んだ。





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