花鎖に甘咬み
私に触れることなく、燈さんの手が宙に浮く。
「ふは」
真弓に掴まれた腕を見て、燈さんは場にそぐわない抜けた笑い声を上げた。それから悪びれず肩をすくめて。
「ええ、頭もだめなんだ」
「減る」
「なるほど。一理あるかもね」
真弓のめちゃくちゃな言い分に、なぜか納得した燈さんは私に微笑みかける。
「もう大丈夫だ。安心していい。ここは僕達に任せな」
血塗られたような真紅のシャツを纏う燈さんの、暗赤色の髪がゆらめいて、こめかみに咲いた大輪の赤薔薇が覗く。
「真弓。この子を連れて去れ。この場からとにかく離れろ」
「ああ」
「追手がつくだろうけど、真弓なら撒けるだろ」
ふ、と燈さんの瞳に強い光が宿る。
それから人垣の向こうに、銀髪がわずかに見えた気がして、息をのむと。
「この場は僕と花織でどうにかする。さすがに完全鎮圧とはいかないだろうけど」
「ああ。────花織も来てんのか」
「天邪鬼だから。花織は結局、真弓のことは放っておけない。万が一真弓が死にかけたら、自分の手で葬るんだってのが最近の口癖だし」
「……厄介な」
「厄介度合いで言うと、真弓もいい勝負だと思うけど」
軽口を叩きながらも、燈さんは、刃向かってくる相手の手首をひねって転がしている。
そんな燈さんが顎で促すと、真弓は迷いなく私の手をとった。
「行くぞ」