花鎖に甘咬み



「ぐあ、っ」



しぶとく私たちを追いかけてしがみついてきた最後のひとりを、真弓が足蹴にする。低く苦しげな呻き声とともに、男はコンクリートの床に崩れて眠りに落ちた。


ふー……と息をついた真弓は、振り返って、追手がいないことを確認する。


燈さんたちの足止めは今のところ成功しているみたいだった。




「あの、ここからどう────」

「ああ」




どうするの、と言葉にし終える前に。


軽く頷いた真弓は、木っ端微塵に壊れた白い壁の向こうへと足を進める。閉じこめられていた箱部屋からようやく脱出できて、私は思わず長い息をついた。


カッと白い明かりが眩く照る。

目を凝らすと、黒く大きなバイクがとまっていて。

ずっと眩しく照っていた白い光が、ヘッドライトだったとわかった。



「とりあえず、コイツで移動する」

「移動……?」

「この辺りはどこも危ねえしな。離れるしかない」



言いながら、真弓は私をそっとバイクの上にのせた。

落ち着かず、おろおろしている私に真弓が器用にヘルメットをかぶせてくれる。ヘルメットの上から真弓が、ぽん、と私の頭を撫でた。



「お前、バイクって乗ったこと────あるわけねえな」

「う、うん」

「バイクより馬車の方がまだ可能性あるか」

「さすがにそれはないよ! 今、何時代だと思ってるのっ」

「時代かよ。ツッコむところ違えだろうが」



呆れた顔をしながら、慣れたようにバイクに跨ってエンジンをかける。予想以上の轟音に体がびくりと震えた。



「これって、真弓のバイク?」

「いーや。燈のパクった」

「パクっ、て、え、それ大丈夫なのっ?」

「問題ない」




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