花鎖に甘咬み
次の瞬間には、豪風に包まれていた。
信じられないほどの猛スピードで景色がめくるめく変わっていく。
「きゃああああああっ!!」
ジェットコースターなんか比じゃない。
幼い頃に柏木に連れて行ってもらった遊園地で乗ったどのアトラクションよりも絶叫体験だ。
真弓の言っていたとおり。
少しでも力を抜けば、あっけなく吹き飛ばされそうなスピードに悲鳴を上げる。
「む、むむむむ無理無理無理っ!」
「おい、声どうにかなんねえのか。響くだろ」
「だ、だだだだだって、こんなに速いなんて聞いてないよっ!」
そのタイミングでカーブに差しかかって、ものすごい遠心力が体にのしかかってくる。ふ、吹っ飛ばされる……!
ぎゅうーっ、と思わず真弓のシャツに皺がよるくらい力をこめると。
「間違っても飛ばさねえから、安心しろ」
「うえええ、そんなのわかんないじゃん……っ」
「怖いならせいぜい俺に必死でしがみついとけ」
「!」
「そういうお前も悪くない」
じゃあ、お言葉に甘えて……と。
おずおず、真弓の背中に顔をうずめる。
こうしてみると、真弓の背中って、ほんとうに広い。
目が回りそうな光景が見えなくなって、それから、真弓のぬくもりに触れて、次第に落ち着きを取り戻す。
背中にぴったりと顔をくっつけていると、とくとく、と規則正しく、それでいて少し早いテンポの心音が聞こえてきて。
これは私のなかから響いている音?
それとも────。
「ちとせ」
「……」
「ちとせ、聞こえてるか?」
「あ、えっと、うん!」
「あと数分で着く。もうちょい頑張れ」
「っ、うん、頑張る」
どうして、こんなにも真弓の声が甘く聞こえるんだろう。