花鎖に甘咬み



そんな小さな傷ひとつ、見逃さず、優しい手つきで消毒してくれる真弓は、なんだか────……。



「過保護……?」

「誰の話だよ」

「真弓が、だよ」



だって、私の傷なんて大したことない。
それよりも。



「真弓の方が、ずっと、怪我してるじゃん……っ!」

「あ? 別にこんなのいつものことだし大したことねえよ」

「そんなことないっ」



大怪我を負わずに済んだのは、よかった。


でも、無傷だったわけじゃない。

私を庇いながら行動していた真弓は、私よりもずっと、傷を負っているはずだ。


シャツから覗く腕には、生々しい切り傷も痛々しい打撲痕も見える。



「大したことあるよ」

「ねえよ。平気だから」



涼しい顔をして、腕をひらひらと動かす真弓。
思わずその腕を両手ではしっと掴んだ。



「大したこと、あるよ」



さっき、私がなんともないって言ったのを真弓は否定した。

だったら、私にだって否定させてほしい。

真弓が、平気だって顔するのを、私は否定したい。




< 217 / 339 >

この作品をシェア

pagetop